Sick City
エピローグ

 殆どの力を消耗して人間に戻った飛鳥だったが、何故かまだ、三人に別れたままだった。どうやら、元の一人に戻る為のエネルギーすら残っていないらしい。
「しばらくは三人のままでいた方が、回復も早いからね」
 ベンチに座って、ペットボトルのミネラルウォーターを飲み干した飛鳥。今夜の突然の状況変化に、俺は改めて不思議な気分だった。俺の両隣に立つツバサとツグミをそれぞれ見れば、二人は笑顔を浮かべていた。
「……どう対応したらいいんだか」
 飛鳥と同じ顔だが、性格の違う両者。
 同じ存在の筈だが、俺としてはまるで別人を相手にしている気分だった。
「別に構える必要なんて無いわよ」
 大人びた印象のツバサがそんな事を言う。
 それに付け加える形で、人懐っこい印象のツグミが口を開く。
「そ〜そ。私達はずっとレイジと飛鳥の事を知っていたんだから、今更他人行儀されても困るし〜」
 俺は二人に疑問をぶつけてみる事にした。
 飛鳥に聞いても、おそらくは素直な答えは返ってこないと踏んだからだ。
「……何で俺に、興味を持ったんだ?」
 それは今まで、ずっと抱いていたものだった。
 飛鳥がどうしてイジメを反省し、俺と話をするようになったのかずっと判らなかった。
 飛鳥本人はベンチに座ったまま、そっぽを向く。
「……よくわかんない」
 しかしツバサは、忍び笑いをして俺の横顔を見ていた。
「ふふ、ほんとは判ってるくせに」
 そこで一旦言葉を区切る。
 ツバサはベンチに座った飛鳥を見やり、視線で何かを投げ掛けているように見える。
「……あたしが判る訳無いでしょ」
 それを聞いて、ツグミが悪戯っぽい笑みを浮かべながら引き継いだ。
「アスカに『九十九鳥の霊』が、一羽だけ受け継がれていたからね〜。背後霊みたいなもんだから。同類みたいな『剣の霊』が近くにいたら、そりゃ親近感が湧くってもんでしょ〜?」
「――ああ、成程」
 俺は納得した。
 つまり、たった一羽だけ取り付いていた『九十九鳥の霊』が俺を仲間か何かだと思い、ずっと気になっていたという事だろう。
 魂の部分で惹かれてしまったのだ。
 自分の分身達に真相を暴露され、飛鳥は激昂した。
「勝手にぺらぺらと喋るな〜!!」
 ――その後、俺はメシを驕らされた。


第五話・妖鳥乱舞
inserted by FC2 system