Sick City
プロローグ

 日本人であるならば、殆どの人が『鶴の恩返し』という民間伝承を知っているだろう。
 傷付いて弱った鶴を助けた青年の元に、美しい娘がやってくる。娘は青年の身の回りの世話を焼き、夜には機織りをして生活を助けた。しかし無理でもしているのか、瞬く間に痩せ衰えていく娘の身を心配した青年は、『機織りをしているところを見ないように』と言われていたのにも関わらず、その約束を破ってしまった。
 実は、娘はかつて助けた鶴の化身であり、己の羽根をむしっては機織りにかけていたのだと知ったのだ。しかし、正体を知られたからには娘は去らなければならないと青年に告げ、夕日に向かって飛び去って行った。
 娘は二度と、青年の元へ帰って来なかった――そんな話だ。
 主に東北地方に伝わるこの伝承は、一方では人助けの大切さを説き、一方では、約束を破る事の愚かさをも説いている、などと言われている。
 また別バージョンでは青年では無く、お爺さんとお婆さんが登場するお伽話になって、子供達の読む絵本になっていたりする訳だが、実際にその教訓が生きているのかは俺には判らない。
 それなら、もしも『鶴の恩返し』が現実に存在するとしたら。
 これから起こる出来事は、もしかしたら現代のお伽話なのかも知れない。


第五話・妖鳥乱舞
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