Sick City

プロローグ

 ゴブリン族の国家『アングレム帝国』によってエルフ族国家『常春の森』が滅ぼされるよりも10年前、森の南に人間の国家があった。その国は古代王国から続くと言われる王家を頂き、古代魔法を受け継いでいたと言う。長い間アングレム帝国に対する防波堤の役割を担っていたのだが、その国が倒れた事で他の人間国家は互いに争い、または内乱が起き、次第に分裂していった。
 レミュエールの父親はその国、『リュカリオン王国』出身の魔法使いであり、10年前のアングレム帝国の侵攻で母親と共に亡くなっている。この魔法国家から収奪された宝物や魔法の道具はゴブリン族の懐を大いに潤し、さらに古代魔法の知識をも奪われてしまった。現在ではリュカリオン出身の人間の魔術師がアングレム帝国で厚遇されており、今ではゴブリンだけの国では無くなっていた。
 亡国リュカリオンの民は多くはその地に留まってアングレムの支配を受け入れたが、難民となって各地へ落ち延びた者達も多くいた。特に王族に近しい者達は処刑を恐れて逃亡しており、リュカリオン王族の正統なる後継者だとか忘れ形見だとかを名乗る者は後を絶たない。
 だがしかし、一番悲惨な目に遭うのは常に弱者である。
 特に戦争で親を亡くした戦災孤児は帰る家も頼れる者もおらず、路頭に迷って彷徨う運命にあった。多くの子供が各地で物乞いなどになり、または戦後のどさくさで奴隷商人に捕まり、そうでない者は犯罪者になった。10年も経てば子供も大人になり、小さなコソ泥が大盗賊になったりする。
 そんな戦災孤児の中で、一つの組織が生まれた。
 どの国へも逃げず、誰にも頼らず、無人の荒野や遊牧民だけの放牧地でしたたかに生き抜く子供達の集まり。遊牧民達や各地を巡る行商人などから忌み嫌われる存在となった彼ら。
 そんな彼らの事を、いつしか人々はこう呼ぶようになった。
 『リュカリオンの子供達』、と。


 登場人物紹介
第十四話・死者蹂躙
inserted by FC2 system