Sick City
エピローグ

 中央行政区の外れの練兵場跡で本国へと戻る手続きの為、各部隊長へ事細かく指示を出していたモルディラの元に伝令が走って来た。
「大変です!ゲッシュ隊長が討ち死にしましたあッ!!」
「何ですって!?」
「侵入者の人間の男は包囲網を突破、現在追撃中との事ですッ!!」
 伝令からの報告に部隊長達が顔を見合わせる。階級ではゲッシュと同じく中隊長ではあるが、彼らよりも長く戦場で勇猛を馳せて来たゲッシュが討ち取られたという事実は衝撃を以て受け止められた。
「……あのゲッシュ隊長が」
「人間の男だと? どういう事だ」
「護衛は何をしていたんだ!」
 それぞれが好き勝手な事を言っているが、事情をある程度知っているモルディラは冷や汗をかいていた。あのような男が何故エルフの味方をしているのか、疑問は多い。しかしこちらの本陣にたった一人で乗り込む、指揮官を討ち取った手並みはやはり侮れない。
「とにかく情報を集めましょう。それから双子はどうしたの?」
 モルディラの問いに一人の部隊長が顔を引き攣らせる。
「あ、ああ。あの兄弟なら死んだ。おかげでエルフの残党を逃してしまった」
「死んだ? あの双子が? 嘘でしょう?」
「ほ、本当だ。詳しい事は知らない。誰もその現場を見ていないからな」
 双子の巨大ゴブリンの正体は環境の変化によって生まれた突然変異種で、どうやら先祖返りのようなものらしい。しかしあの双子を倒せる者など、そうはいない筈だ。もしかしたらあの男では無いかなどと、モルディラの脳裏に浮かぶ。
「ではエルフ残党の追撃部隊を即座に編成しなさい。私はゲッシュ隊長の最後の命令通り、本国へと報告に戻るわ」
 モルディラは心の中で、あの男についての報告が最優先になりそうだと考えていた。


〜To Be Continued
第十三話・妖精舞踏
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