Sick City

プロローグ

 大陸の西、『霧の海』の向こうに大きな島がある。島の住人は大半が入植者で、かつて栄えたと言われる古代王国の末裔など皆無であった。しかしそんな彼らとは別に、昔からこの島に住み着いている者達がいた。
 亜人間(デミ・ヒューマン)。
 誰もが夢想するお伽の世界、そんな話の中で登場する妖精や鬼、巨人など。そんな空想上にしか存在しないような知的生命体がこの島には存在していた。その為か、大陸の覇権争いとは異なった独特の勢力争いが見られた。
 『鋼の』人間族。
 『火の』ゴブリン族。
 『山の』ドワーフ族。
 『砂の』オーク族。
 そして『森の』エルフ族。
 この五種族による種族間戦争はそれぞれが開発した武器の優劣などの要因で、最終的には人間族とゴブリン族の二強時代へと突入していた。それ以外の種族は衰退期に入り、それぞれが独自の生存戦略を掲げて二大種族との共存を模索している最中である。
 それぞれの種族が開発した武器については、それぞれの種族の文化的な影響が見て取れる。
 まず人間族は『鋼の』という二つ名から分かる通り、鋼鉄製の武器を生産した。『鋼(はがね)』とは鉄に炭素を配合した合金の事である。この鋼で造られた武器は元来の青銅器や鉄器に比較して高い耐久性を持ち、装備の平均的な質を高めた事で個人よりも軍団の精強さを高める事になった。
 ゴブリン族は『火の』ような性格として知られ、特に放火行為が種族的特徴とされていた。その為か火薬や油の扱いに長じており、彼らが開発した『爆弾』は大量破壊兵器として恐れられる事となった。
 ドワーフ族は『山の』鉱脈から掘り当てた様々なレアメタルやレアアースを用い、機械工学を発展させた。彼らの造り出した『ゴーレム』は無人で動く自動人形で、比類無き堅牢さで鉄壁の守護者となった。
 オーク族は『砂の』中に潜んでいた、サンドワームと呼ばれる巨大なミミズを飼いならす術を獲得した。砂漠における彼らの力は圧倒的で、砂漠では向かうところ敵無しとまで言われた。
 エルフ族は『森の』霊力を活用する方法を磨いた。アニミズムやシャーマニズム的な霊力や呪術を身に付け、不思議な力で敵を翻弄した。
 しかしこれらは数的有利の順番でもあり、特に衰退している三種族はそれぞれ強力な武器ではあるものの量産性は低く、拡大路線には不向きな技術である事が衰退の要因ともなっている。


 登場人物紹介
第十三話・妖精舞踏
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