Sick City
エピローグ

 立て続けに起きた破壊活動により、駅前周辺区域は陸上自衛隊と警察によって立ち入り制限された。奇跡的に駅機能は全くの無事で、線路も損傷が無い事で、鉄道は問題無く動き始めていた。
 ただ街中はビルの倒壊が目立つので、警察によって交通誘導が行われている。警察による捜査も行われており、戻ってきた周辺住人への事情聴取がされている。
 各所のビルや路面などに打ち込んだアンテナ代わりの矢は、既に認識を切って消滅している。
「シェパードさんにはまたお世話になっちゃったね。怪我も治して貰ったし」
 学園に避難している筈の仲間と合流する為に、学園へ戻る道すがら、横を歩くアヌビスにお礼を言う。左腕と左足の甲の骨のヒビは、アヌビスの力で完全に回復されていた。
 って大袈裟に言ってるけど、実は単にペロペロ舐めるだけだったけど。両耳をピンピンと何度か動かし、アヌビスは無愛想な口振りで応じる。
「そのシェパードさんというのは、どうにかならないか」
「じゃあ、アヌビス?」
「その名は古代ギリシャ人によるものだ。古代エジプトではインプと呼ばれていたが、さらに遡れば別の名がある……。しかしどの名前も、既に人々の信仰を失った今では大差は無い」
 何が言いたいのか訳が判らない。
「……だったら何でもいいって事じゃない。シェパードさんでいいよね」
「神にとっては名前は重要なんだが……それより今回の件で判ったとは思うが、いよいよ敵の姿が見えてきた。お前も何が大事なのか、よく考えて今後の行動を決めるべきだ」
 それは『仮面の神』とか何とか、何だか訳の判らない話の事だろうか。
「う〜ん、正直まだよく判ってないんだけど。私は私の心配事があるから、そっちを優先しようかな、と」
 神だの何だの、そういう事はそっちで勝手にやってればいい。人には人の生活があるのだから、今は最大の心配事である楯山静ちゃんの事をどうにかしたい。アヌビスはしばらく黙り込み、ふと立ち止まって身体の向きを変えて脇道に頭を向けた。
「……それで当面は問題無いだろう。ではな」
 それだけを告げて、さっさと何処かへ立ち去ってしまった。
 前を見れば学園の校門が姿を見せており、その前で団長達が立っているのが確認出来る。私がゆっくり歩いてくる姿を向こうも確認したらしく、安堵の表情を浮かべながら駆け寄ってくる。
「姐さん! よくぞご無事で」
「……ご無事で」
「……マジかよ」
 最後、蓮見だけがよく判らない反応を返す。
 その横で、叶さんが手を振っていた。
「いや、さすがは崎守の娘。後で話、聞かせてね」
 団長とテレオはあのボクサー探偵の鳴神と戦う前までしか知らないけど、蓮見はケツアルコアトルの姿をカメラで撮影していたので、私が戦ったのが化け物なんだと知っている。それでも今ここで詳しい話をする訳にもいかず、叶さんは遠慮しているのだろう。
 それに極限まで己を酷使した戦いの後という事もあり、私の身体は疲労でガス欠寸前なので、話すのも億劫という状態でもある。
「……心配掛けちゃったね。街はもう、大丈夫だから」
 それだけを言って、私は意識を失った。


第八話・怪鳥強襲
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