Sick City
プロローグ

 常に時代の日陰に存在し、人知れず戦闘技能を研鑽してきた崎守の一族。剣術と体術を併せ持った『天仰理念流』は、長子だけが伝承してきた。しかし、それ以外の者は何も受け継がなかったのか。
『天仰理念流』の剣術は、剣を持たずに剣を教えるという特異性を持つ。
 それは魂に刻まれし、朧げな剣影をいつか掴む時の為。
 だけど崎守は剣だけでは無い。
 長子が剣を受け継ぐならば、次子は弓を受け継ぐ。
 そのような訳で私――崎守御空は、兄が剣を教わる傍らで、幼い頃より弓道を祖父より叩き込まれた。
 私は弓道が嫌いだった。
 何故ならば、弓道は精神論ばかりが先立っていて、幼い自分には酷く退屈だったから。そもそも性格的には協調性が無く、放任主義的な育て方をされた為、人の言う事を気にしない性格だった。
 そして、崎守だけとも言える特殊な条件。
 それは『矢を番えない』弓術だったからだ。
 剣において『剣を持たない』のと同じく、『矢を持たない』弓道。
 そんなものが一体、何の役に立つと言うのか。
 だけど同時に叩き込まれた体術は、兄と一緒に修練をさせて貰えたので退屈はしなかった。
 それだからこそ、高校二年となった今でも弓道を続けていられる。
 そんな私も高校生となって部活を選ぶ時、興味深いものを見た。
 幼い頃より慣れ親しんだ、弓のその見事な機能美。
 でも弓道部には興味は無かった。
 そこで見たのは、アーチェリーだった。


第七話・巨神幻惑
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