Sick City
エピローグ

 諸々の結果が現実としてどう跳ね返って来るのか、時に予測不可能な場合が多々あったりする。ズーワールドでの激闘から三日、劇的な変化は主に学生生活に現れた。
「卓郎様。ゆきが丹精込めてこしらえたお重です。ささ、ご賞味下さいませ」
 普通に有り得ない光景が、目の前にて繰り広げられている。澄み切った青空の元、校舎の屋上の隅っこで乳繰り合う男女の姿。そんな二人を生暖かく見守る、スーツスカート姿の叶さん。
「ま、嫌がる私を教師にした罰だと思って諦めなさい。でも初勤務でこんな面白いイベントが見れるなんて、思ってもいなかったわ〜」
 蓮見の奸計によって桐琳の非常勤教師となった叶さんは、今日が勤務初日だった。
「ちくしょう! 冗談じゃねえや! アンタの旦那は『多田市郎』であって、俺じゃねえっての!!」
 有無を言わせずに『ゆきちゃん』の隣に座らされた蓮見が、この期に及んでまだ抗議の声を上げる。
 そのゆきちゃん、桐琳の制服が実に見事に似合っていた。
「でもさあ。多田市郎の生まれ変わりだって判明したんだから、おんなじ事なんじゃないの? これから一生の付き合いになるんだからさ、いい加減ラブラブしてやんなさいよ」
「うるせえ! 余計な事言うんじゃねえ!!」
「そんな卓郎様。ゆきに何か、至らぬ事でもありましたでしょうか? ゆきは悲しゅうございます」
 まるで噛み合ってない会話が続く。
 どうしてゆきちゃんが桐琳の制服を着ているのかと言えば、まあ要するに蓮見と離れたく無いんだそうだ。美雪としての人格は全く表面には出ず、しかも妙に順応していたりするし、見てる分には中々面白い。
 ちなみに、ゆきちゃんは小柄ながらも『アルビノ』と言う珍しい外見が妙にウケてるらしく、転向初日にして既に有名人だ。
「……あのさ、一応学校内じゃ人の目があるんだから、ちょっと自重して欲しいんだよ。いや、ちょっとどころか、出来れば近寄らないでくれ」
 蓮見の拒絶は判らなくも無い。
 何せクラスでの自己紹介が終わった瞬間、彼女は蓮見の元に駆け寄ってから側を離れてくれないのだそうだ。戦国時代の大和撫子のクセに、周りなんて全く気にしないんだから珍しいと言うか。
「おかしな事をおっしゃられます。わたくしは卓郎様の妻です。卓郎様に悪い虫が付かぬよう、しっかりとお側に付き従うのは当然の事かと。決して離れませぬ故、どうか大船に乗った気でいて下さいませ」
 何と言うか、ゆきちゃんはどうも暴走気味と言うか、最初の頃のイメージなんて既にぶっ飛んでしまっている。可愛い性格をしてるなんて思ったりもするけど、まるで押し掛け女房みたいで蓮見に同情もする。
「ああ、どうすりゃいいんだよ俺!?」
 悲鳴を上げる蓮見に、私が駄目押し。
「目の前に三枚のカード。『ハグ』『ダッシュ』『ダイブ』。もしかして、人生の分岐点?」
「ダイブって何だ! 屋上だからか!?」
 蓮見の悲鳴が響き渡る。さらに叶さんの駄目押しが続く。
「ワイフカード続く、みたいな話?」


第九話・乙姫伝説
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