Sick City

プロローグ

 我はここに魔道の真実を書き記し、その理解によって人類へ警鐘を鳴らすものとする。
 まず魔術とは、脳の一部をシリコン結晶へと変質させる事によって獲得出来る魔力(マナ)を操る技術である。この人間の新たな能力の開拓が魔道であり、半ば人間を捨て、炭素生物とケイ素生物のハイブリッドとなる事で可能となるのである。
 稀に強い意志の力によってこれと同じ事を自力で成し遂げる者もおり、例えばエルフなど精霊と交信出来る存在は既にハイブリッドとなった種である。
 脳内回路で魔力(マナ)を集める際、魔力の通り道として神経細胞をシリコンニューロンへと変質させた『脈』を通る事でより効率化に成功した。これらシリコンニューロンネットワークは脳内回路の生成でも同様であり、人体を一つの魔力回路へと改造する事こそ魔術の真髄である。
 ただしこれらシリコンニューロンは全体が一つに繋がっている訳では無く、それぞれのシリコン細胞が電位によって接続される事によってネットワークを形成する。これらを『力点』と称するが、これら力点の活性に至らなければ魔術を発動させる事は出来ないのである。
 本来の神経も同時に存在しているので肉体の挙動に大きな影響は見られないが、これら全身を駆け巡る『脈』を活性化するには強力な意思の力が必要となる。例えば炎を生み出すのだとして、それを鮮明にイメージ出来なくてはならない。炎をまぶたの裏に想像し、その熱気を肌に感じる。そうまでしてようやく炎の具現化に至る訳である。
 ここまで述べたように、魔術とは人道から外れた外法である。
 より強大な魔力を得たいと願うならばさらなる肉体改造が必要であり、それは人を捨てる事へと繋がる。そうやって極地へと至る者は生死すら超越し、『不死の王』と呼ばれる存在へと変貌を遂げる。
 そしてこの段階になってようやく我々は、魔術が『彼ら』の技術であると思い知らされるのだ。彼らの仲間となり、彼らの蓄積してきた情報群に接する事によって我々は知ったのだ。
 ここまで読んだ者は分かるだろう。
 これを書き記す私は既に人では無いのだ。私は『彼ら』の一部となる前に、何とか自我を保ってこれを書き残している。後世にこれを読んだ者が、魔術を極めんと大きな間違いを起こさずに済むように。
 魔術はこちらの道へと進んではならない。
 どうかこれを読んでいる君よ、くれぐれも間違いを犯さないで貰いたい。
 もしもこちらへと来るのであれば、君は君でなくなるだろう。


 登場人物紹介
第十五話・真祖暗躍
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